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2008年5月31日 (土)

ASCO2008-その1

「乞うご期待」と書いては見たもののシカゴに到着して初日から時差ボケでボーとしている。学会初日の30日,Education Sesseionsをいくつか聞いたが途中から眠ってしまってスライド写真を撮っているカメラまで落としてしまう体たらくだ。もっとも,ほかにもいびきをかいている人はいたし,Education Sessionsとはいえ,ドクター向けのEducationなのだから,素人の自分が時差ボケの頭で理解しようとしても睡魔が襲ってくるだけなのは当然かという気がしないでもない。

“Emerging Targeted Therapies in Non-Small Cell Lung Cancer”のセッションはここ数年,画期的な進歩を遂げ,海外だけでなく日本でもいくつかすでに承認されている分子標的薬の今後の課題や方向性(タイトルではin Non-Small Cell Lung Cancer[非小細胞肺癌;NSCLC]となっているが,特にNSCLCにだけ限定される話ではないと思った)をテーマとしたセッションだった。

イントロでコロラド大学癌センターのPaul A. Bunn氏は,今後の課題として,1)How to validate target(標的の妥当性の検証の仕方),2)How to develop biomarkers for pt selection(患者選択のためのバイオマーカーの開発),3)How to optimize trial design to allow for smaller subsets without paralyzing the clinical trial system(臨床試験の体制を壊さないで小集団の試験が行える最適な試験をデザインすること)の3つご挙げたが,最後の課題は個別化医療とは矛盾するものなので結局不可能でないかと感じた。

“Signal Pathway Inhibitors in Lung Cancer Therapy”というタイトルの講演を行ったH. Lee Moffitt癌センターのEric B. Haura氏は,現在臨床応用されているさまざまなチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitors;TKI) を例に挙げ,各癌細胞がチロシンキナーゼのシグナル伝達系全体のなかのどこでどのような異常を引き起こしているのかなど,ネットワーク全体の中での機能解明が今後の課題である,というようなことを言っていたように思う。

半分眠気まなこで聞いていたのと,もともと私の理解をかなり超える話だったのでよく理解できていないとは思うが,たとえばEGFR阻害薬を例にとると,ある種の癌細胞にはEGFRの過剰発現が認められ,それを阻害(TKIやリガンド(抗体薬))することが癌の標的治療だとの説明を読んだことがある。しかし,わたしはそんな単純なものじゃないだろう,と思っていたし,事実そのようである。今の分子標的治療薬とよばれるものは,癌に特異的とされる分子(それが受容体の分子の場合もあれば,血管新生に関与する酵素の場合もある)を見つけて,それにあった阻害薬もしくは抗体薬を作るという考え方だが,講演のなかでHaura氏も示していたが,標的となりうる受容体や(同じことだが)遺伝子は現在知られているだけでもかなりの数があり,それらがシグナル伝達ネットワークのなかでどのような働きをしているのかは未解明な部分が多い。つまり,ある標的を効率よく特異的に阻害できる薬剤が開発されたとしても,その結果,シグナル伝達のネットワーク全体のなかで,その阻害によってどのようなことが起こるかはわからない。

“Manegement of Chronic Toxicities from Colorectal Cancer Systemic Therapy”のセッションでは,2番目に発表したノースウェスタン大学のMario E. Lacouture氏の“Reducing the Morbidity of EGFR-Associated Skin Toxicity”という講演が印象に残った。この人は皮膚科の専門医らしいが,EGFR阻害薬に多いといわれる皮膚の副作用について実際の症例写真などをたくさん示しながら説明していた。EGFR阻害薬の副作用としては,重大なものとしては間質性肺炎が言われているが,皮膚の副作用(発疹や掻痒)は広く(80~90%)認められるものの重大なものではないとされている。しかし,Lacouture氏のこの講演を聴いて示されたそのスライドを見ていたら,これがそんな軽い副作用だとは思えなくなってきた。もっとも,皮膚の副作用の発現は治療効果を示すものであり,副作用が多い人ほど癌治療の効果は高いということだが(白血病治療でDVHDの副作用が強く出て,それを乗り越えられた人のほうが完寛後の再発率が低いことから,GVL効果が発見されミニ移植が始まったということを連想した),いわゆる化学療法(cytotoxic drug)と比べて副作用の少ないと言われている分子標的薬でこれほどの副作用が出るのなら,「夢の抗癌薬」などとははるかに遠いなあと感じた。

“The Multidisciplinary Management of Colorectal Cancer Liver Metastases”というセッションも聞いた。肝転移大腸がんに対する化学療法,手術,放射線治療について,3人の演者が講演したが,化学療法と手術については,やはり,resectable(切除可能な)という言葉の定義が一定でないということ(このことはよく言われていることで,最初に発表したGasthuisberg/Leuven大学病院のEric Van Cutsem氏も最後のスライドで,No clear definition of unresectable liver metastatesと言っていたが)が,素人考えでは議論の混乱というか,話が前に進まない原因なのではないかという印象を持った。3人の発表の後,フロアからの質問で,2番目に発表したMDアンダーソン癌センターのSteven A. Curley氏(外科医)に対して「resectableの患者がいたとして,術前に化学療法をするか?」という質問があり,それに対してCurley氏は「それは個々の患者による」というような返事をしていたと思う。これなども私はどうも納得のいかないやりとりであった。resectableというのは,切除してよくなる,切除する意味がある,という言葉だと思うのに,resectableと決まった症例に対して術前化学療法をするかどうかを議論するというのはどういうことなのだろうか。

時間がないので今日はこのあたりでやめておきます。

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