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2008年6月

2008年6月12日 (木)

プラセボ効果を構成する要素を検証?

仕事がたまっているのでそちらを処理しなければいけないのだが,準備体操のつもりで海外文献を拾い読みしていたら,おもしろそうなタイトルの抄録を見つけたので目を通した。これが失敗だった。“Components of placebo effect: randomised controlled trial in patients with irritable bowel syndrome”というBritish Medical Journalに掲載された論文で,components of placebo effectというところに興味を引かれて読んでみたがこれがさっぱりわからない。いや,書いてあることは理解できているつもりなのだが,こんな試験をする意義が全く理解できない。また,研究内容にそもそも論理的矛盾があるような気がして仕方がない。

目的のところで,プラセボ効果を実験的に3つの要素に分け,その3つをその後併用していくことで,これら3つの構成要素の相対的な重要性を検討するとある。対象は過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome;IBS)の患者262例(平均年齢39歳,女性は76%)で,プラセボ効果を1)assessment and observation(経過観察),2)placebo treatment(偽の鍼治療),3)supportive patient-practitioner relationship(支持的態度で患者に関心を向ける患者-医師関係)に分け,1)のみを「observation群」,2)のみを「limited群」,2)に3)を加えた群を「augmented群」として,無作為割付してそれぞれの「プラセボ治療」を3週間行い,半数は6週間継続させた。

結果は,Global improvement scale (range 1-7),adequate relief of symptoms, symptom severity score, and quality of life,のいずれにおいても,「augmented群」が有意に改善度が大きく,結論では「プレセボ効果に関係する因子を用量漸増(dose escalation)するようなやり方で加えていくことが可能だ。非特異的な(プラセボ)効果が臨床的にも統計学的にも有意なアウトカムをもたらし,患者-医師関係はその中でも最も確実に効果の得られる(robustな)要素である」としている。

この試験はいったい何を証明したいのだろう?そもそもプラセボ効果を1)assessment and observation,2)placebo treatment,3)supportive patient-practitioner relationship,に分けたことが恣意的なものだし,その3つをプラセボ効果の構成要素と決め付けて試験を開始しているのがよくわからない。

しかも,IBSのような自律神経の不調が関係していると思われる疾患で,なにもしない(経過観察),偽の鍼治療,偽の鍼治療と良好な患者-医師関係,に分ければ,最後の群で症状が改善される可能性が高いことは当然のことではないのだろうか。

このような試験が論文となりBMJというようなジャーナルに載る(筆頭著者のTed J Kaptchuk氏ははハーバードの准教授だ)ということは,医学的・科学的に意義のある論文ということなのだろうか。

ASCO2008-その3

シカゴから戻ってすでに1週間。親の見舞いで帰省などしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。いまさらASCO2008-その3として書く材料もないのだが,少しの訂正と感想を書いておこうと思う。

ASCO2008-その2で,ImClone社とGenentech社の展示ブースについて書いたが,ImCloneだと思っていたほうはMerck KGaA(ドイツ)のブースだったことに写真を整理していて気づいた(両展示の写真をアップしました)。Cetuximab(Erbitux)がImClone社から生まれたことは間違いないが,販売はMerck KGaAやBristol-Myers Squibbと提携しているらしい。ちなみに,Merck KGaAはドイツの会社で,米国のMerckとは(もとはドイツのMerckから始まったらしいが)いまは完全に別の会社だ。

ASCOの最終日は,依頼を受けた会社のための取材アサイメントはなかったので,じっくり発表を聞いてみようと会場へ向かったものの,前日,知人にアメリカンステーキをごちそうになり酔っ払ってベッドに入るのも遅かったので,暗い会場でまたもやウトウトしてしまった。これじゃあ,時差ボケでボーとしていた初日となんら変わりない。我ながら情けなく思った。これではイカんと,乳癌のポスターセッションの会場に行き,入り口のところから順番にじっくり見始めたが,10演題に目を通すのに1時間もかかってしまった。記憶を頼りに覚えている内容を書こうと思ったが,1週間たった今,何も残っていない。

今回,4年ぶり(前回は2004年)のASCOだったが,その頃,すでに○○tinibや-○○mabの演題はかなり話題になっていたのも帰国後改めて知った。イマチニブ(グリベック)のことは当時から知っていたし関連する発表も少しは聞いたが,そのときは乳癌のホルモン製剤の演題取材がアサイメントの中心だったので,cetuximab,bevacizumab,erlotinibなどの言葉に注意を払うことがなかった(trastuzumab[Herceptin]については多少記憶がある)。無知というのは恐ろしい。

もう1つの感想。米国のヘルスケアが国として戦略的な産業に位置づけられていることは以前から理解していたし,医療の商業主義の最先端であることも,ASCOに限らず米国の多くの大規模学会に出席した経験からわかっているつもりであったが,今回,あらためて,産業としてのヘルスケアの力の大きさを感じた。もちろん,日本でも製薬業界は巨大産業であり,バイオは今後もますます重要な産業だが,米国と日本で大きくことなる印象を私が受けるのは,巨大病院,医療センターや学会そのものが,日本などよりもはるかに意識的に企業として行動していることだ。実際,アメリカの学会は株式会社になっているものも少なくない。医療制度が異なることも当然関係しているだろうが,どうもしっくりこない気分が残る(このへんのあたりはうまく書くことができない)。

いずれにしろ,自分の知識不足,勉強不足,実力不足を改めて感じさせられたASCO2008だった。

2008年6月 4日 (水)

ASCO2008-その2

時代はチニブ-マブ

分子標的薬の興隆はASCOの発表演題を見ていても明らかだが,展示会場を歩いていてもチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の「何とかtinib」と抗モノクローナル抗体薬の「何とかmab」を製造している会社や販売している会社のブースがやけに存在感を持っていた。時代はまさにチニブ-マブという感じだ。

Cetuximab(Erbitux)の開発元であるImClone社のブースでは,「Battle against Cancer」というタイトルの3D映像が流れていた。ディズニーランドなどにある3D映画と同じで,紙のメガネを借りてみると,映像のなかのパーツが飛び出してこちらに向かってくる。内容は,癌の発生機序を説明したもので,ErbituxがリガンドとしてEGFRに結合して,癌をアポトーシスに至らしめ消滅させるというストーリーだった。本当にリアルに見てきたような鮮明かつ明快な映像で,ホンマかいな?という気分は払拭できなかったものの,すばらしい出来ではあった。こういう映像製作はそれこそ広告会社の仕事であろうが,そういうことに熱心になれない(何よりもそのような分野の才能がないことは自覚している)自分としては,多少抵抗を感じたが,出来栄えの素晴らしには素直に関心した。

一方,bevacizumabu(アバスチン),erlotinib(タルセバ),traszumab(ハーセプチン),rituximab(リツキサン)という4剤の製造元であるGenentechのブースでは,4箇所で各薬剤に関係するtrue or falseの質問(5つ程度)を会社の担当者が示し,回りに集まっている人がそれに回答して,終了した時点で「夏休みのラジオ体操に出席した小学生」よろしく(←この例えは40歳以下の人には通じないだろうなあ),もらったカードにスタンプを押してもらい,次の薬の質問ブースへ行く。4箇所(4剤)のtrue or falseの問題と回答を終了した人は4つのスタンプを押してもらい,そのカードをわたすとおみやげのキットをもらえるという展示アトラクションだった。わたしはerlotinibの質問のところだけ後ろで2回ほど聞いていたが,当然とはいえ,答えがtrueであってもfalseであっても,erlotinibにはポジティブな内容の質問であった。キットの内容を聞いてみたら,レーザーポインターなどが入っているらしい。Genentechのこのやり方はImCloneの最新技術を使った映像とは対照的な,非常にベタな方法ではあったが,これはこれでうまく集客につながっていた。

これらチニブ-マブな薬は,米国内でも併売している会社があり,日本の製薬メーカーでも当然販売している(Erbituxはまだ日本では承認されていないが)ので,展示会場(サッカーができるほどの広さ)のいたるところで-tinib,-mabという文字が目についた。

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