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2008年9月 1日 (月)

学会取材-日本受精着床学会

8月28日と29日,福岡で日本受精着床学会が開かれた。わたしは某社からの依頼で28日に発表のあった数演題を取材したが,依頼された取材で結構バタバタしていたのと体調不良(前日の夜に福岡入りしたもの何故か一睡もできずほぼ徹夜でホテルの朝を迎えた)が重なり,どうも積極的な聴講ができなかった。記憶も薄れてきたが,いくつかの演題/講演について,感想を書いてみよう。

教育講演1-02 「生殖補助医療とインプリンティング異常」(東北大学未来工学医療開発センター 有馬隆博氏)は,タイトルを見てすぐに聞いてみたいと思った講演だった。これまで,生殖補助医療(ART)による妊娠で生まれた子の先天異常有病率は自然妊娠で生まれた子のそれと変わらないとされ,それをサポートする研究もいろいろ発表されてきたが,最近,ART出生児に周産期合併症の発生頻度が高いという報告がいくつか出てきているそうだ。

そのくらいの知識はわたしも持っていたのだが,ARTで生まれた子に自然妊娠で生まれた子よりも多く発生するのはインプリンティング遺伝子という遺伝子になんらかの異常が後天的(エピジェネティック)に加わるからではないかという説があるらしい。インプリンティングとは刷り込みのことだが,鳥は生後最初に目にした対象を自分の親と思い込む,という程度のことしかわたしには思いうかばなかった。有馬氏の講演は,インプリント遺伝子というものがどういうものであるかから始まり,それが発生のどの段階で獲得されるか,インプリント遺伝子異常によって起こるインプリンティング病にはどのようなものがあるか,ARTとインプリント遺伝子異常との関係など,広範囲にわたったが,正直,難しくてよくわからなかった。インプリント遺伝子というのは,発生の早い段階で,父親由来のアレル(対立遺伝子)もしくは母親由来のアレルのみが発現されるよう選択される遺伝子のことであるらしく,その数は全ゲノムのなかである一定のパーセント(1%だったか0.5%だったか今は思い出せない)は存在するらしい。

そのインプリント遺伝子に異常がある場合に発生するのが,Beckwith-Wiedemann 症候群,Angelman 症候群,Prader-Willi症候群といったインプリンティング病だ。DeBaunという研究者が米国におけるART治療後のBeckwith-Wiedemann 症候群が4.1%,一方,一般集団における発症率は0.76%と2003年に報告しており,それだけを聞くと怖い気がする。もっとも,これらの症候群は,もともとの発症率が10000~20000人に1人程度の率なので必要異常に神経質になる必要は現時点ではないのかもしれない。

ランチョンセミナーは,「メタボリック症候群と生殖機能」(演者:九州大学病態制御内科 准教授,柳瀬敏彦氏)を聞いた。受精着床学会の内容とはあまりかぶらない,メタボリック症候群の基準値の問題点などの話が前半にあり,後半ではDHEA(いわゆる若返りホルモン)の値と寿命の関係などが示されおもしろかった。メタボ基準では女性の腹囲基準が90cmというのがおかしいこと(90cmとカットオフ値とすると,メタボになる女性は数%しかいなくなってしまう)は日本の多くの研究者の追試によってもほぼ証明されているらしく,わたしの理解が正しければ,日本の女性の場合は78~80cmあたりが適切な値のようだ。一方,男性の場合は85はちょっと厳しく87cm程度が適切な値という印象を受けた。ま,いずれにしても,現在の日本の基準値はやはり早晩,修正を余儀なくされるのではないだろうか(国際糖尿病学会[IDF]やその他海外学会からも日本の基準は奇異に見られているようだ)。

諏訪マタニティクリニック院長,根津八紘氏の「実母により代理出産」の発表も聞いた。この発表については,学会の前にすでに新聞などで報道されており,また,最新の「女性自身」などでも取り上げられているが,根津氏自身がクリニックのホームページでコメントを載せている。実母が娘の子供を代理母として妊娠し,生むというのはそこだけ読むとセンセーショナルな内容だが,まず患者(依頼母)はロキタンスキー症候群という生まれながらに子宮がない(あるいは機能しない)女性か子宮癌などで子宮全摘手術を受けた女性であり,自分の子供を持つ残された手段としては現在のところ代理母しかないのは理解できる。「自分の子供」と書いたが,わたしが一番疑問だったのはこの点だった。根津氏の場合,患者(依頼母)夫婦の配偶子(女性の卵子と夫の精子)を使った代理母出産に限定しているようであり,この点もわたしには抵抗なく受け入れられた。ただ,実母とはいえ55~60歳の女性が妊娠・出産することについては,控えめに言っても「驚き」というのが正直な感想だ。

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