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2009年3月 6日 (金)

素晴らしい医学統計の本を見つけました

仕事がら医学統計の知識の大切さは痛感しているので,これまでにも入門書や参考書を何冊も買ったが,ほとんどが積読(つんどく)状態のままになっている。最後まで読み通せた本は1冊ぐらいじゃないだろうか。しかし,久しぶりに素晴らしい本にめぐりあった。

ドキドキワクワク論文☆吟味。医学統計ライブスタイル Book ドキドキワクワク論文☆吟味。医学統計ライブスタイル

著者:山崎 力
販売元:SCICUS
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実は先週,某社の仕事でこの本の著者である山崎先生を取材する機会があり,その折にこの本を紹介されたのだ。そのときは,本の宣伝チラシを見せてもらっただけだが,第3章の目次タイトル,

1. なんでもかんでもエンドポイント? 2.後付の解析に気をつけろ,3.複合エンドポイントに惑わされるな

を見て直感的に読みたいと思った。内容は,臨床試験の基本的用語や解釈の仕方を説明したものだが,ここ数年の実際の臨床試験を例に挙げて,個々の試験の問題点や論文を読む際の注意点などが,講義形式のスタイル(文体)で記述されている。

序文にも書いてあるが,試験名を実名で出すべきかどうか,著者は相当迷ったようである。本書を読めば迷った理由は十分理解できる。日本で実施された最近の大規模臨床試験がいくつか取り上げられており,いずれについてもかなり批判的な解説をされているからだ。

しかし,私にとってはここ数年で出会った最良の本の1冊かもしれない。難しい数式は一切出てこないが,記述内容のレベルは非常に高い。今までなんとなく疑問に感じていた点がわかりやすく解説されており,スッキリした気分だ。

「みんな知っている内容なんだけど」というようなことを山崎先生は言っておられたが,ここまで率直に書くのはたいへん勇気のいることだと思う。説明の語り口はとてもソフトで簡潔だが,内容的には非常に激しい部分がある。

例えば,ニフェジピンの心イベント抑制効果を「証明」したとされる,JMIC-B(Japan Multicenter Investigation for Cardiovascular Diseases-B)については,ランダム割付け後の除外例の多さを,SCOPE(Study on Cognition and Prognosis in the Elderly)と比較して,その問題点を指摘している。

また,日本で多く行われているPROBE(Prospective Randomized Open Blinded Endpoint)デザインの試験について,その利点と欠点を説明したあと,JIKEI HEART Studyを取り上げ,そのエンドポイントの問題点(複合エンドポイントのなかに,「狭心症による入院」,「心不全による入院」というソフトエンドポイントが含まれており,しかも,これら2つの「イベント」発生率の差が,複合エンドポイント全体の差に大きな影響を与えている)を詳しく解説している。

JIKEI HEART Studyの結果は,臨床疫学の専門家の多くが<限りなく黒に近い灰色>と言っているそうであり,著者自身も<私も,これは限りなく黒に近いと思っています。>と率直な見解を述べている。

ほかにもJELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)のサブ解析についての情報提供の仕方に偏りがあること(サブ解析の結果のうち[スポンサー企業の]都合のいい情報だけを発表している)にも触れている。

また,MEGA (Management of Elevated Cholesterol in the Primary Prevention Group of Adult Japanese) Studyについては,NNT (number needed to treat)  = 119,追跡期間6年という結果から,1人の患者さんを救うのに薬の値段(薬価ベース)だけで4900万円以上かかる治療が,統計学的に有意な結果であっても,果たして臨床的に有意な結果と言えるだろうか,と問題提議している。

細かく挙げていくときりがないが,ほかにもこの本には「目からウロコ」のような多くの指摘が実際の臨床試験に関連づけて紹介されている。

本の終わりのほうでは,スポンサー主導で行われる臨床試験は,結果がそのスポンサー(の薬剤)にとって有利な結果になりやすい,という不可避のバイアスについて言及し,「作られる」統計的有意差については,前東京理科大学教授・佐久間昭先生の<統計的有意差 = 薬の力 x  会社の努力>という言葉を紹介している。

以上,かなり刺激的な内容を含むが,本書全体のトーンはあくまでも冷静かつソフトであり,日本の臨床試験がより良いものに発展していくことを真摯に願う山崎先生の熱意が伝わってくる気がした。

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