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2010年2月 9日 (火)

再生医学/再生医療は人類を幸せにするか?- ES細胞やiPS細胞の最近の話題から感じること

まったく大それたタイトルをつけてしまったが,それほど大したことを書こうと思っているわけではない(書けるわけがない)。

今年に入って再生医学(ES細胞,iPS細胞)関連の国際シンポジウムの取材があり,来週も同様のテーマで,ある研究者を取材する仕事があるのだが,相変わらず 「高度なテーマに乏しい知識」,つまり 「知識の自転車操業」のペダルを踏み続ける毎日だ。

取材したシンポジウムというのは,1月に大阪の千里ライフサイエンスセンターで開かれたもので,日本からは京大の山中先生,慶応の岡野先生といったトップランナーの講演があり,米国,カナダ,オーストラリアから4人が招待演者としてきていた。

どちらかというと啓蒙のためのシンポジウムなので,特段新しい発表はなかった(と思う)のだが,印象としては,ES細胞の研究のほうがiPS細胞より進んでいる,ということだ。これは,まあ当然といえば当然で,倫理的な問題や臨床応用したときの“拒絶”の問題を除けば,ES細胞のほうが操作しやいだろうことは推測できる。

テクニカルなことは理解できない部分が多いのだが,印象に残ったのは,カリフォルニア大学アーバイン校・准教授のHans S. Keirstead氏が講演の最初に言った「Commercially viableでなければClinical applicationはできない」という言葉だ。ようするに,ビジネスとして採算がとれなければ臨床応用の実現はできない,ということで,当たり前で誰でもわかっていることだが,iPS細胞やES細胞の臨床応用に立ちはだかる一番の課題だろうと思う。

再生医学などの研究で,iPS細胞の樹立は日本が先陣を切ったが,その後の研究スピードは特に米国に比べて日本は遅れている,というのが,研究者やメディアでの共通認識だと思う。それはたぶんそのとおりなのだろうが,米国ではさきのKeirstead氏の言葉にあるように,ビジネス化することに狙いを定めて投資なり研究のテーマ選択をしている人が多いし,そのことをまったく悪びれずに隠さないので,そもそものスタンスが違うような気がする。

今後,再生医学/再生医療の実用化がどのくらいまで進むのかはわからないが,健康保険でカバーされるような誰でも受けられる医療には当分(ひょっとしたら永遠に)ならないのではないだろうか。

米国との比較でいうと「がん難民」という言葉が時々使われ,そういうときにきまって言われるのは「日本では薬の承認が遅いので海外で使われている“新薬”が日本の患者さんには使えない」というようなことだ。しかし,米国であっても,高価な新薬を使えるのは,とんでもない高い民間保険に加入している人などに限られている。そもそも,現時点で米国には,公的保険としてはメディケアとメディケイドしかなく,一般の人が入っている保険も,安いHMOの保険から青天井の高い保険まで,ピンきりである。

ところが,「がん難民」などという言葉で,日本の新薬承認状況を批判的に述べている記事などは,がんの新薬を保険適応して,どんな治療でも,自己負担額が高額医療費の限度額までで使えるようになるべきだ,と言っているような印象を受ける。今だって,自費で個人輸入するつもりなら,承認されていようがいまいが,どんな薬でも使える(投与に協力してくれる医者がいなければ実際には使えないが)し,事実,闘病している人でそういう人は少なくないはずだ。

なにがいいたいかというと,再生医学/再生医療についても同じで,研究はこれからも加速度的に進むだろうし,ひょっとしたら,いまでは考えられないような治療が本当に実現するかもしれないが,それが,われわれが普通に払っている公的保険(健康保健や国民健康保険)の支払いだけで受けられるようになるのは,おそらくないだろうということだ。

特に,生の細胞を扱う再生医療は,どんなに技術が進んでも,効率化には限界があると思う。パソコンや液晶テレビであれば,作れば作るほど,値段はどんどん下がってくる。はたして,iPS細胞やES細胞を使った再生医学/再生医療でそういうことが可能だろうか。

米国は,再生医学/再生医療の研究を国家プロジェクトとして推進しているから,日本もそれに遅れてはならない,もっと研究費をつぎこんで,官民一体でどんどん研究を加速すべきだ,というニュアンスの発言を読んだり聞いたりすることがときどきあるが,そういうことを言う人(研究者,役人,メディア)は,将来,どこまでの臨床応用が実現でき,それは,どれくらい多くの人に普及させることができるのか,そのようなことを少しでも考えているのだろうか。

 実はわたしは,がんに対する“細胞免疫療法(治療)”という,相当以前から期待されながら,なかなか“標準治療”になることができない医学分野の仕事も時々しているのだが,最近,それに関連した座談会の仕事で,某大学の教授(婦人科)が「いま,大学が生き残っていくためには,再生医療をやらざるをえない」というような内容の発言をしたのが妙に記憶に残っている。

結局,再生医学/再生医療研究も「流行り(はやり)」でしかないのか。研究者が研究費を確保するためのテーマでしかないのか,と失望感を覚えた。

また,とりとめのない文章になってしまった。

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