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2010年9月 2日 (木)

野田聖子や小錦の不妊治療記事を読んでつらつら考えた

不妊治療に関する週刊誌・新聞記事を続けて読んだ。1つは野田聖子衆議院議員の妊娠記事(週刊誌名を失念したが[週刊新潮か週刊文春だったような気がする],週刊誌でも読んだし,2日ほど前の朝日新聞にも出ていた),もう1つは,小錦の不妊治療体験記(こちらは週刊ポスト 9月10日号の138ページ)。

小錦は自らが無精子症であること,精巣内精子採取手術(TESE)の体験談などをポストで語っている。無精子症ではなかったが,顕微授精まで経験のあるわたしにとって,小錦の率直な経験談(とそのニュアンス)はよく理解できた。また,<「僕はお医者さんから,タネ(精子)がないといわれた。でも,恥ずかしいと思ったこと,ないよ。自分から色んな人に話して,アドバイスや情報をもらっている」>という発言には共感を覚えた。

そもそも,子どもができない,あるいは,できにくい体質(状態)であることを「不妊症」という病気と考えるのが間違いで,身長の低い高いや,体重の軽い重い,という程度の違いと考えるべきだと思う(もっとも,体重が重いと,最近では“メタボ”という病気にされてしまうが)。

しかし,費用についての話で小錦が<「運良く精子が見つかって体外授精することになったら,さらに費用がかさんで100万円は見ないといけない。僕は自分が経験して思ったの。日本は今,少子化問題を抱えているんだから,国として不妊に悩む人たちへのサポートを考えるべきだよ。保険の適用はすぐにでもするべきじゃないかな」>という発言はいただけない。

(注:週刊ポストの記事では,“体外授精”という字が使われているが,この“授精”が inseminationという意味であれば“授精”でいいのだが,通常,体外,とセットで使われるのは,受精(fertilization),つまり,体外受精(in vitro fertilization = IVF),という言葉だ。体外授精,という言葉は普通は使われない。両者の違いをわかったうえで,あえて,“体外授精”,としているのならいいのだが,どうもこの記事を書いた人は,違いがわかっていないんじゃないかという気がした)

不妊(治療)というと,すぐに,日本は少子化問題が深刻だから,という発言をする人がいるが,これらは全然違う次元の問題だ。こんなこと,ちょと考えればわかると思うのに何故,こういうことをすぐに言い出す人(政治家や評論家のような人)がいるのだろうか。誤解を怖れずに荒っぽい言い方をすると,少子化問題の“解決”だけを考えれば,不妊の問題を抱えていない人に第2子,第3子を作るようにしむけるほうが手っ取り早いし効率もいいはずだ。何故なら,不妊カップルが増えているというのが本当だとしても(これについても,完全には証明されていない。昔も同程度,子どものできないカップルはいたが,不妊治療やクリニックが昔はなかっただけかもしれない),そうでないカップルのほうが圧倒的に多いからだ(現在,10組に1組くらいは不妊とも言われている)。

子どもを持ちたい思うカップルは,不妊であるないかに関係なく,日本の少子化問題のことなどを考えて行動を決めているわけではない。

もう1つは,不妊症治療を保険適用せよ,という発言だ。わたしも配偶者が第一子を妊娠するまで約5年間の治療で国産の高級車一台分くらいの金は使ったが,不妊治療を全面的に保険適用にすべし,という考え方には同意できない。財政に余裕のある地方自治体が(そんな自治体が日本にあるだろうか?),1回とか2回の制限を設けて,例えば,体外受精に一定の補助を出す,というのであれば反対ではないし,すでにそういう制度はかなり整っている。

不妊治療を全面的に保険適用することに反対する理由の1つは,すでに書いた,不妊を病気とする考え方に賛成できないからだ。また,どこかで歯止めをかけないと,「子どもを得る権利」のような言い方で要求を高めていくと,きりがなくなるからだ。

野田聖子議員の件は費用的な面ではこの問題とも関連する。アメリカに行って,提供卵子と配偶者の精子による妊娠にも保険適用を認めよ(日本は少子化問題がたいへんだから!)というところまで世論が動くことはないと思うが,そういう無謀なことを言い出す人もひょっとしたらいないとも限らない。特に,それで票が得られると勘違いした政治家なら言いかねない。

野田聖子議員が自分あるいは配偶者の金を使って,50歳で妊娠・出産するのはもちろん自由だ(ただし,議員の仕事はしっかりやっているのかねえ,という疑問は残るし,議員やりながら渡米して不妊治療やれるなんて,議員という職業はラクなんだなあとは正直思う。普通のサラリーマンならまず無理だろう)。

ほかには,50歳で妊娠して子どもを育てることの医学的・生物学的リスクと倫理・道徳的な問題か。これについては「個人の勝手でしょ」で済ませられる部分と,それだけではすませられない部分があると思う。

ただ,朝日新聞の記事にあったと思うが,「そこまでして生みたい?」というのが現時点ではまあ,普通の反応だろうし,それでいいのではないだろうか。ようするに,(議員さんなどの?)金と時間に余裕のある人が勝ってにやればいい,としておけばいいのだと思う(もちろん,生まれてくる子どもの権利と福祉が損なわれないような法律の整備は必要だし,これは大きな課題だ)。

最後に1つだけ。ドナー卵子や代理母のような手段で妊娠し,子どもを持つことを「自然でない」という理由だけで反対する人もいるがこのような考え方はおかしいと思う。自然でないと言ってしまえば,顕微授精による体外受精ももちろん不自然だし,話を広げれば,輸血,臓器移植,再生医療(ES細胞,iPS細胞),など,すべて不自然だ。自分の気に入らない事に関してだけ,自然の摂理に反する,という人がたまにいるが,そういう人には辟易する。

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不妊治療」カテゴリの記事

コメント

>>輸血,臓器移植,再生医療(ES細胞,iPS細胞),など,すべて不自然だ

今ある命を存続させるために進化してきた医療技術は不自然だとは思えません

しかし顕微鏡の中で新しい命を誕生させる事、これは不自然な気がします。

通りすがり様
 コメントありがとうございます。ある技術(医療に限らず)が自然であるか,とか,不自然であるか,というのは,主観的な議論なので,考え方が異なる場合,同意に至ることは無理だと思います。わたしが言いたかったのは,自然 = 善,不自然 = 悪(良くない),のような,妙に自然をありがたがる人たちがときどきいて(食品などについてもそうですし,漢方薬は“自然”だから西洋医学よりよろしいとか,癌に対する“免疫療法”は自然だからいいとか),そういう流れで,顕微授精(ICSI)とか野田議員が試みた卵子提供による体外受精(これもICSIに間違いありません)を「自然に反する」(だからよくない)というような意見は困るなあということです。なお,「顕微鏡の中で新しい命を誕生させる事」と書いておられますが,実際のICSIは,顕微授精,という日本語からもわかるように,細い針のような器具で精子を卵子に入れ(つまり,授精),そのあとは,シャーレのなかで3日~5日程度培養し,受精卵(胚)を女性の子宮に戻すので,新しい命が育つのは,女性のお腹の中に入ってからです。顕微鏡の中ではあません(もっとも,戻した受精卵[胚]を「新しい命」と呼べば確かに新しい命ですが)。それから,再生医療の技術と不妊治療の技術には深く関連があり,不妊治療の研究の成果が再生医療の進歩にもつながっています。

はじめまして。
卵子提供に関する記事を検索中に、こちらのブログにたどり着きました。
私は在米なのですが、日本における非配偶者間の体外受精に関しても、もう何十年も前から行われているにも関わらず未だに「グレーゾーン」という中途半端な状態だと最近知りました。
まさに「日本の生殖医療界もモラトリアム状態」といった所でしょうか。。。

保険に関してですが、私も「原因不明の不妊」は病気だとは思いませんので、

> 少子化問題の“解決”だけを考えれば,不妊の問題を抱えていない人に第2子,第3子を作るようにしむけるほうが手っ取り早いし効率もいいはずだ。

この部分は私も同じ意見です。
不妊治療と少子化問題は別だと思っています。
ある企業が働きながら治療を行っている女性の為に「治療有給休暇」を出しているようですね。
一般社会がこのような形で支援していった方が建設的かなと思いました。

私も不妊治療の末、卵子提供の道を選びました。
生まれてくる子供が偏見の目にさらされる事のないような世の中になる事を強く望んでいます。

キジトラ様
 コメント,ありがとうございます。
わたしの近所だけでも,体外受精で授かった子どもが何人かいますが,その話を聞くとき,
お母さんはなぜか「ヒソヒソ話」になるんですよね。「実は,うちも.....」みたいな感じで。
私が直接,ほかのお母さんとそういう話をしたのではなく,配偶者からの又聞きですが。
直接には,子どもと同じ小学校に通っている男の子のお父さんと飲む機会があり,聞き出したことがあります。
聞かれもしないのにわざわざ言うことでもないのかもしれませんが,「うちの子どもは帝王切開で生まれたのよ」,
と同じくらいの感覚で,「うちは,長男は体外受精で生まれました」と言えるようになればいいがなと思っています。
一方,卵子提供(および精子提供)や代理母など,その組み合わせも考えると,ART(高度生殖医療)はどこまでも
行ってしまいそうなので,生まれてくる子供の福祉や権利関係なども含めて,どこまでの医療を認めるのかについての
議論は必要だと思います。ただ,冷静な議論をするためには,それなりの知識が必要ですが,
不妊でない人にとっては「関係ない」知識でもあり,マスコミで話題になるときだけ,興味本位で騒がしくなるのは
困ったものです。もっとも,これは不妊治療に限らず,ほかの物事すべてそうですけど....。

あなたの考えに半分賛成

半分反対

なるぞう 様
 どういうところが賛成でどういうところが反対ですか。

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