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2015年10月28日 (水)

新潮45 11月号 「医学の勝利が国家を滅ぼす」(里見清一)を読む

10月の仕事が一段落したので今週は楽しみのための読書をしようと買ったままの本や雑誌、電子本(Kindle)を整理し始めたが、読みもしないのに買っている本や雑誌の多さに自分でも呆れている。

新潮45 11月号はおもしろそうなタイトルが並んでいたので衝動買いしたが(kindle版はないので紙の雑誌)、昨日、一番読みたかった表題の文章を読んてみた。里見氏が「本物」の免疫療法と呼ぶチェックポイント阻害剤、オプジーボ(一般名はニボルマブ)は、従来の化学療法や分子標的薬と比べ効果持続期間が長く、1年半~2年生存する約30%の患者についてはさらに長期の延命が期待できるという(使用経験が短いため、“奏効”例で実際に何年の延命効果が得られるかは現時点では確認できていない)。日本ではすでに悪性黒色腫に対して認可されており、今年中にも肺癌(扁平上皮癌)についても承認が見こまれている(正確には、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に対する効能追加承認申請、がすでになされている)。

これだけであれば朗報に聞こえるが、里見氏はこのあと、新薬のとんでもない値段の高さとコストパフォーマンスの問題を、ほかの分子標的薬なども例にあげながらさまざまな角度から論じ、米国臨床腫瘍学会(ASCO2015)で発表されたニューヨークのレオナルド・ザルツ氏の講演内容も紹介しながら、治療のコストパフォーマンスの悪さを指摘している。

詳しくは雑誌を手に取って読んでいただきたいが、免疫治療では偽増悪(pseudo-progression)という 現象(画像での陰影が大きくなるが、それが一過性で、その後効いて腫瘍が小さくなる現象)があり、しかも、それが偽増悪かどうかは患者が亡くなる直前までわからないので、治療を打ち切ることができなくなる(打ち切る理由が見つからない)という。(一般的には、固形癌の増大が画像診断で確認された場合は、その時点で癌の進行と判断され、次の治療[二次治療]やその次の治療[三次治療]に進むが、どこかの時点で、延命のための治療はもう残っていない、となる)。

イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)におけるEGFR変異型や、アービタックス(一般名:セツキシマブ)におけるRAS野生型のようによく効く患者を見分ける手段があればよいが、それはチェックポイン阻害剤に関しては見つかっておらず、すぐに見つかる見込みも今のところはないらしい。

なお、チェックポイント阻害剤とは、癌に備わる免疫逃避機構をオンにするポイント(そこがオンされると、生体に備わっている抗腫瘍免疫が働かなくなり、その結果、癌の増殖を抑えられなくなる)を阻害する薬のこと。

このように画期的な薬であるにもかかわらず、その莫大な薬剤費のため(薬価そのものの高さに加え、偽増悪と本当の増悪との区別がつかないため、多くの無駄うちが発生する)、この薬が保険で使えるようになると国家の保険財政は破綻する、というのがこの寄稿の主旨である。

また、最後まで「もしかしたら効くかもしれない」ということで治療がひっぱり続けられる結果、緩和医療が崩壊・消滅し、ホスピスは減少。医者は患者とまともに向き合わなくなるだろうとも里見氏は指摘している。

短期的対策は至適投与法の確立、ようするに増悪が認められた場合、それが偽増悪か本当の増悪かを区別する研究を進めるということしかなく、これについては里見氏も、いずれある程度の成果は得られることを期待している。

しかし、一方で里見氏は、そのような方法で医療費を少しは節約できてもそれは「焼石に水」に近く、長期的な対策としては高齢者の医療を苦痛の軽減やQOLの改善を中心としたのものに転換し、いたずらに延命(生き長らえること)をめざす現在の医療からの脱却が必要と主張している。

<どうすればよいか―長期的対策>の見出しで始まる最後の3分の1(約6頁)が実は本寄稿の最も重要なメッセ―ジの部分であり、わたしはその内容に賛成するが、正直言って、それは実現されないだろうとも思う。情けないことだが、日本人は、死に対する覚悟がなさすぎるからだ。

(あと数分で出かけなければらないので尻切れトンボで終わってしまうが) わたしの予測は、目の飛び出るような高価な新薬は今後もどんどん開発され、保険承認もされるが、どこかで保険財政はもたなくなるので、高額医療費制度の自己負担額がもっと多くなるか、年齢によって保険で使える薬が制限されたりして(年齢 + 薬剤の種類で、保険でカバーできる割合が変わる)、保険制度そのものが現在のものとは全く違ったものになることを余儀なくされるだろうということだ。それは、ほとんど財政破綻と同じような状態かもしれないし、医療は現在のものとは大きく変わるだろう。

寄稿の最後の言葉「だから、我々に逃げ道はない。覚悟を決める時である。」は正しいとは思うが、そのような覚悟を日本人が総意として持つことは残念ながらないだろうと思う。

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