最近のトラックバック

不妊治療

2016年9月28日 (水)

<3人の遺伝子持つ子供誕生 米医師が成功> っていう日経新聞の記事に茶々を入れたくなった - 営業再開記念ブログエントリー(笑)

9月25日(日)まで10日間、臨時休業していましたが、月曜日(9月26日)から営業を再開しました。お仕事の依頼、お待ちしています。

なんて、本当はいろんなことにヤル気を失ったので休養していただけである。開店休業状態は今週も、あまり変わらない。ツイッタ―で遊んでいたら、この記事が目にとまったので、そのソースらしいニュースリリースを探してみた。

3人の遺伝子持つ子供誕生 米医師ら  生命倫理巡り議論も

以下、記事をコピペ。

<引用開始> 【ワシントン=川合智之】英科学誌ニュー・サイエンティストによると、米ニューヨークの不妊治療病院の医師らが、3人の遺伝子を持つ子供を誕生させることに成功していたことが明らかになった。子供の誕生を目的としない同様の研究計画は検討されていたが、実際に子供が生まれたのは初めてとみられる。生命倫理などを巡って議論を呼びそうだ。

 担当したのはニューホープ不妊治療センターのジョン・ザン医師ら。遺伝性の疾患を持つ母親の卵子の核を別の女性の卵子に移植し、父親の精子と受精させた。

 両親はヨルダン人で、4月に男児が誕生した。男児の健康状態は良好という。米国では治療が認められていない手法のため、規制が未整備というメキシコで治療を実施し、出産した。

 男児は母親と父親、卵子提供者の3人の遺伝子を受け継いだ。母親には「リー症候群」という遺伝する神経系障害があり、これまでに流産をくり返していたほか、出産した2人の子供を亡くしていたという。同様の疾患を持つ親にとって朗報となる可能性がある。

 米生殖医学会のオーウェン・デービス会長は27日、「生殖医学にとって重要な進展だ」とする声明を発表した。ザン医師は10月に米ユタ州で開く同学会の会合で治療の詳細を発表する。

 一方で、こうした技術は子供に希望通りの外見や能力を持たせる「デザイナーベビー」に応用される恐れもある。同様の治療を生命倫理上認めてよいのか、子供の親は誰なのかといった社会制度面の課題が今後出てきそうだ。<引用終わり>

この記事を読んで、私がまずひっかっかったのは、<3人の遺伝子を持つ子供を誕生させることに成功していたこと>という部分。不妊治療をしても、女性が高齢の場合、卵子が老化しているので、なかなか受精、妊娠に至りにくい。そこで、卵子を若返られせる方法として、若いドナーから細胞質(卵子のなかの、核以外の部分)を得て、その細胞質をレシピエント(高齢の不妊治療女性)の卵子の中に入れる、ということは、<卵子の若返り法>としてすでに10年以上前から行われており(もっと前かも)、その結果、細胞質に含まれるミトコンドリア遺伝子がドナーのものとなり、ドナーのミトコンドリア遺伝子、レシピエントの核(核の中に遺伝子=DNAがある)、夫の遺伝子の<3人の>遺伝を持つ子供が生まれた、という報告はずっと前にすでにある(ここで、きちんと検索して文献なりニューズレターなりをリンク付けしたほうがいいのだろうが、面倒なのでパスします)。

(ちょっと検索すればそういった内容のニュースはいくつもヒットします。例えばこれ。)

今回の記事を読んで、結局、同じことだろう、と思った。で、日経のこの記事の出所はこれだと思われるが、やはりミトコンドリア遺伝子だった。もっとも今回は、患者(レシピエント)がミトコンドリアDNA突然変異(リー(Leigh)症候群なので、目的は<卵子の若返り>ではない。患者の核遺伝子(本来の遺伝情報を保存している)を受精後、紡錘体(spindle)という段階になった段階で、取り出して、ドナーの卵子の核遺伝子と交換した。これは、紡錘体置換法(Spindle nuclear transfer )という方法らしいが、その結果、ドナーの細胞質(ミトコンドリア遺伝子は細胞質の中にある)、患者の核遺伝子、患者の夫の遺伝子)を持つ赤ちゃんが生まれた、というだけのこと。

それよりも私が面白いとおもったのは、元の英語記事の

[Quote] Zhang has been working on a way to avoid mitochondrial disease using a so-called “three-parent” technique. In theory, there are a few ways of doing this. The method approved in the UK is called pronuclear transfer and involves fertilising both the mother’s egg and a donor egg with the father’s sperm. Before the fertilised eggs start dividing into early-stage embryos, each nucleus is removed. The nucleus from the donor’s fertilised egg is discarded and replaced by that from the mother’s fertilised egg.

But this technique wasn’t appropriate for the couple – as Muslims, they were opposed to the destruction of two embryos. So Zhang took a different approach, called spindle nuclear transfer. He removed the nucleus from one of the mother’s eggs and inserted it into a donor egg that had had its own nucleus removed. The resulting egg – with nuclear DNA from the mother and mitochondrial DNA from a donor – was then fertilised with the father’s sperm. [Unquote]

下線部の部分だ。その前の部分で説明されている方法では、レシピエント、ドナーのいずれの卵子をもレシピエントの夫の精子で受精させ、分割早期の胚(embryo)から1つずつをとって、ミトコンドリア遺伝子を入れ替える。何分割の段階でこれを行うのかはわからないが(記事では、early-stage embryosとなっているだけ)、8分割とか16分割あるいはそれ以上だから、2個以上のembryoを破壊・処分することになる。

しかし、イスラム教徒(Muslim)は、2つのembryoを破壊することに反対の立場なので(as Muslims, they were opposed to the destruction of two embryos)、今回のSpindle nuclear transfer という方法が採用されたとのこと。インスラム教徒の間ではほんとうにそんな決まりがあるのだろうか。

いずれにしても、3人の親の遺伝子、なんていうと3人の核遺伝子を共有しているような印象を与えるが、核遺伝子は患者とその夫のものだけなので、日経の記事の最後にある、<一方で、こうした技術は子供に希望通りの外見や能力を持たせる「デザイナーベビー」に応用される恐れ>などとは全然関係ない。

そのあとの<同様の治療を生命倫理上認めてよいのか、子供の親は誰なのかといった社会制度面の課題>という部分は、確かに議論されるべき問題かもしれないが、これは代理母とか、卵子提供、精子提供、など、夫婦間の卵子と精子(と子宮)を使う一般的な不妊治療以外の方法でなされる不妊治療すべてに残る課題で、今回のニュースがもたらす注目点ではない。

2010年9月 2日 (木)

野田聖子や小錦の不妊治療記事を読んでつらつら考えた

不妊治療に関する週刊誌・新聞記事を続けて読んだ。1つは野田聖子衆議院議員の妊娠記事(週刊誌名を失念したが[週刊新潮か週刊文春だったような気がする],週刊誌でも読んだし,2日ほど前の朝日新聞にも出ていた),もう1つは,小錦の不妊治療体験記(こちらは週刊ポスト 9月10日号の138ページ)。

小錦は自らが無精子症であること,精巣内精子採取手術(TESE)の体験談などをポストで語っている。無精子症ではなかったが,顕微授精まで経験のあるわたしにとって,小錦の率直な経験談(とそのニュアンス)はよく理解できた。また,<「僕はお医者さんから,タネ(精子)がないといわれた。でも,恥ずかしいと思ったこと,ないよ。自分から色んな人に話して,アドバイスや情報をもらっている」>という発言には共感を覚えた。

そもそも,子どもができない,あるいは,できにくい体質(状態)であることを「不妊症」という病気と考えるのが間違いで,身長の低い高いや,体重の軽い重い,という程度の違いと考えるべきだと思う(もっとも,体重が重いと,最近では“メタボ”という病気にされてしまうが)。

しかし,費用についての話で小錦が<「運良く精子が見つかって体外授精することになったら,さらに費用がかさんで100万円は見ないといけない。僕は自分が経験して思ったの。日本は今,少子化問題を抱えているんだから,国として不妊に悩む人たちへのサポートを考えるべきだよ。保険の適用はすぐにでもするべきじゃないかな」>という発言はいただけない。

(注:週刊ポストの記事では,“体外授精”という字が使われているが,この“授精”が inseminationという意味であれば“授精”でいいのだが,通常,体外,とセットで使われるのは,受精(fertilization),つまり,体外受精(in vitro fertilization = IVF),という言葉だ。体外授精,という言葉は普通は使われない。両者の違いをわかったうえで,あえて,“体外授精”,としているのならいいのだが,どうもこの記事を書いた人は,違いがわかっていないんじゃないかという気がした)

不妊(治療)というと,すぐに,日本は少子化問題が深刻だから,という発言をする人がいるが,これらは全然違う次元の問題だ。こんなこと,ちょと考えればわかると思うのに何故,こういうことをすぐに言い出す人(政治家や評論家のような人)がいるのだろうか。誤解を怖れずに荒っぽい言い方をすると,少子化問題の“解決”だけを考えれば,不妊の問題を抱えていない人に第2子,第3子を作るようにしむけるほうが手っ取り早いし効率もいいはずだ。何故なら,不妊カップルが増えているというのが本当だとしても(これについても,完全には証明されていない。昔も同程度,子どものできないカップルはいたが,不妊治療やクリニックが昔はなかっただけかもしれない),そうでないカップルのほうが圧倒的に多いからだ(現在,10組に1組くらいは不妊とも言われている)。

子どもを持ちたい思うカップルは,不妊であるないかに関係なく,日本の少子化問題のことなどを考えて行動を決めているわけではない。

もう1つは,不妊症治療を保険適用せよ,という発言だ。わたしも配偶者が第一子を妊娠するまで約5年間の治療で国産の高級車一台分くらいの金は使ったが,不妊治療を全面的に保険適用にすべし,という考え方には同意できない。財政に余裕のある地方自治体が(そんな自治体が日本にあるだろうか?),1回とか2回の制限を設けて,例えば,体外受精に一定の補助を出す,というのであれば反対ではないし,すでにそういう制度はかなり整っている。

不妊治療を全面的に保険適用することに反対する理由の1つは,すでに書いた,不妊を病気とする考え方に賛成できないからだ。また,どこかで歯止めをかけないと,「子どもを得る権利」のような言い方で要求を高めていくと,きりがなくなるからだ。

野田聖子議員の件は費用的な面ではこの問題とも関連する。アメリカに行って,提供卵子と配偶者の精子による妊娠にも保険適用を認めよ(日本は少子化問題がたいへんだから!)というところまで世論が動くことはないと思うが,そういう無謀なことを言い出す人もひょっとしたらいないとも限らない。特に,それで票が得られると勘違いした政治家なら言いかねない。

野田聖子議員が自分あるいは配偶者の金を使って,50歳で妊娠・出産するのはもちろん自由だ(ただし,議員の仕事はしっかりやっているのかねえ,という疑問は残るし,議員やりながら渡米して不妊治療やれるなんて,議員という職業はラクなんだなあとは正直思う。普通のサラリーマンならまず無理だろう)。

ほかには,50歳で妊娠して子どもを育てることの医学的・生物学的リスクと倫理・道徳的な問題か。これについては「個人の勝手でしょ」で済ませられる部分と,それだけではすませられない部分があると思う。

ただ,朝日新聞の記事にあったと思うが,「そこまでして生みたい?」というのが現時点ではまあ,普通の反応だろうし,それでいいのではないだろうか。ようするに,(議員さんなどの?)金と時間に余裕のある人が勝ってにやればいい,としておけばいいのだと思う(もちろん,生まれてくる子どもの権利と福祉が損なわれないような法律の整備は必要だし,これは大きな課題だ)。

最後に1つだけ。ドナー卵子や代理母のような手段で妊娠し,子どもを持つことを「自然でない」という理由だけで反対する人もいるがこのような考え方はおかしいと思う。自然でないと言ってしまえば,顕微授精による体外受精ももちろん不自然だし,話を広げれば,輸血,臓器移植,再生医療(ES細胞,iPS細胞),など,すべて不自然だ。自分の気に入らない事に関してだけ,自然の摂理に反する,という人がたまにいるが,そういう人には辟易する。

2009年5月29日 (金)

体外受精のプロセスがよくわかるビデオ- Cook Medicalが提供

アメリカの Cook Medicalという会社が生殖補助医療(assisted reproductive technology;ART)(体外受精-胚移植[IVF-ET],顕微授精[ICSI], 凍結[cryopreservation]胚移植体外受精など,高度生殖医療技術の総称)のプロセスを説明した教育ビデオ(CookARTLab)をWeb上に公開した。なかなかよくできたビデオで不妊治療に関心のある人にとっては必見かもしれない。もっとも,民間の会社のサイトなので,途中で少し宣伝くさい説明はあるが,ICSIのプロセス全体を映像で見られるので,不妊治療をこれから始めようかという人には役に立つと思う。ただ,残念ながらアメリカのサイトなのですべて英語である。映像の下のバーに出てくる文字だけ簡単に日本語にしておく。

【-Day 1】
Introduction(はじめに)
Media Set-up & Preparation (培養液の準備)

【Day 0】
Ovum Collection Preparetion (採卵の準備)
Ovum Collection (採卵)
Ovum collection needle (採卵針について)
Oocyte Cryopreservation (卵母細胞の冷凍保存)
Cumulus-Oocyte Complex (卵丘・卵母細胞複合体)
Sperm Preparation (精液洗浄)
ICSI Preparation (ICSIの準備; ICSIは intracytoplasmic sperm injectionの略語で,顕微授精と同義に使われているが,正しくは,卵細胞質内精子注入法)
ICSI Procedure(ICSI実施)
Insemination(授精; このパートは,顕微授精ではなく,初期の体外受精で,シャーレの中で授精[insemination]させ,受精[fertilization]させる方法を説明している。ビデオではClassical IVFと言っている)

【Day 1】 Pronuclei Observation (前核の出現を確認)

【DAY 2-5】
Embryo Observation(胚の確認)
Embryo Transfer Catheters (胚移植に用いる器具[カテーテル]の説明)
Embryo Transfer (胚移植)
Embryo & Blastocyst Cryopreservation(胚と胚盤胞の冷凍保存)
Conclusion (終わりに)

2009年2月20日 (金)

香川県立中央病院の“受精卵取り違え”事故

「香川県は19日、県立中央病院(高松市)で昨年9月、不妊治療のため体外受精をした20代の女性に、誤って別の患者の受精卵を移植した可能性があるとして、約2カ月後に人工妊娠中絶をする医療ミスがあったと発表した」

時事通信が配信したこの記事をYahooのニュースで見たとき、別に驚きはしなかったが、興味は持った。すでに何回か書いているが、わたしも不妊治療に丸5年費やし、3つの病院・クリニックを経て、体外受精(顕微授精)で長男を得たので、「患者」 として不妊治療の現場をそれなりに経験している。(患者を「 」カッコで囲ったのは、いわゆる不妊症をわたしは病気だとは考えていないからだ。これについても、書きたいことはいろいろあるのだが、長くなるので今日はこの問題には触れない)。

わたしたち夫婦が通った3つめのクリニックは、不妊治療の東の横綱とも言われる東京都内の専門クリニックで、その混みようたるやすさまじいものがあった。クリニックのなかには、近くのビジネスホテルの案内や割引クーポンまで置いてあった。これはもちろん、地方から治療を受けにくる人のためだ。

採精室(要するにマスターベーションをして射精する部屋だ。エロ本やエロビデオももちろん置いてある)から出てきて、精液の入った容器を窓口に差し出したとき、どうにも不安を感じたのをいまでも思い出す。混雑している空港でスーツケースを預け入れ荷物として差し出すときのような感じに近いだろうか。

配偶者のほうの採卵は別の部屋で行われ、受精させた受精卵はシャーレに入れられ培養期で数日、育てられる。

わたしの実体験から感じた「現場感覚」だと、相当な数の受精卵や精子を長年扱っていて、取り違え事故が1件も起こらないほうがむしろ奇跡で、今回のようなケースはこれまでにも多数あるはずだ。

不妊治療における、精子や卵、胚などの取り違え事故のリスクについては、すでに以前から指摘されており、最近では「蔵本ウイメンズクリニック」(福岡市)が実施した調査が学会でも発表され話題にになった。

今回の香川のニュースを読んでわたしが興味を持ったのは、時事の記事の最後のほうにある以下のくだりだ。

<香川県によると、昨年9月中旬ごろ、担当の男性医師(61)が女性の受精卵が入った複数のシャーレを培養器から取り出し、作業台の上で発育確認と培養液の交換をした。その際、直前の作業で台に残っていた40代の患者のシャーレに女性のシャーレのふたをして培養器に戻し、数日後に受精卵を女性の子宮に戻した疑いが強いという。>

これを読むと、40代の患者のシャーレに20代の女性(今回、人工中絶した女性)のふたが使われ、40代の患者の受精卵が20代の女性に移植されたことになる。ここがどうも腑に落ちない部分だ。今回の“被害者”が40代で、20代の女性の受精卵が誤って40代の女性に移植され、40代の女性が20代の女性の受精卵で妊娠してしまった、というのなら理解しやすいのだが.....。40代の女性の受精卵と20代の女性の受精卵では、妊娠確率は全然違うはずだからだ。もちろん、20代の女性の受精卵の妊娠確率が高く、40代の女性のそれは低い。

今回人工妊娠中絶したこの女性が身ごもっていた赤ちゃんは、結局は、自分の卵子による赤ちゃんだった可能性も結構高いんじゃないかという気がする。

毎日新聞の記事を読むと、<高松市の香川県立中央病院で19日明らかになった、不妊治療中の体外受精卵の取り違え疑惑。「誰の受精卵か確認できないのか」。治療を受けた20代女性は昨秋、ミスを告げられて人工中絶したが、病院側は中絶の前、出産に希望をつなごうとする夫婦の質問に「6週間後なら分かるが、その時に中絶すると母体に負担が大きい」と説明していた。待ち望んだ妊娠だったのに……。夫婦は3日後、中絶を決意したという。> とある。

確かに、<中絶した時は妊娠9週目だった>とあるので、さらに6週間待ってからであれば、妊娠15週か16週目。遅いほうが医学的にリスクが高いのは間違いないだろうが、少なくとも法律上は21週まで中絶は可能なはずだから、もう少し待ってもよかったんじゃないかという感想を持った。

少し勘ぐると、病院側が、事を穏便にすませたいために、人工中絶に同意するようこの夫婦を誘導尋問的に説得したんじゃないかと思ってしまう。

昨年9月に妊娠し、約2か月後に人工妊娠中絶をしたということなので、中絶をしたのは11月か遅くとも12月初めだ。それがいまになって、<夫は県を相手に約2000万円の損害賠償を求める訴えを高松地裁に起こした>というのだから、病院側の対応になにか不誠実なものや納得いかないものがあったのではないだろうか。

いずれにせよ、いまや国内の総出生児のうち、50人に1人近くが体外受精で生まれているのだから、今後もこのような「事件」はどんどん表面化してくると思う。

2009年1月23日 (金)

理解できない-「第三者の卵子提供による体外受精」だけを取り上げる感覚

締切の原稿がまだできていないのでブログばかり書いているのは気が引けるのだが、「非配偶者間の体外受精、クリニック団体も2例の出産成功」という記事を偶然、目にしたので書かずにはいられない。

わたしは、自分自身、不妊治療経験者だが、今の仕事をはじめるずっと以前から疑問に思っていたのは、AID(artificial insemination by donor;非配偶者間人工授精)のことだ。日本では、すでに1948年からAIDが実施されており、すでに1万人以上の赤ちゃんがこれによって生まれているとされるのに、これに関する調査やフォローアップは十分されず、メディアでもあまり取り上げられない。最近ではAID施行例は減っているようだが、これだけの人数がAIDで生まれているとなると、知らぬまま異母兄弟で結婚しているカップルが日本で生まれている可能性も十分あるはずだ。

それなのに、厚生科学審議会の生殖医療部会が、「非配偶者からの精子・卵子の提供・胚の提供を認め、子どもの出自を知る権利を認める報告書」をまとめたのはやっと2003年になってからだ。

学会でも世間でも、「第三者の卵子提供による体外受精」に関する議論のみが頻繁になされているような印象を受けるが、50年以上の歴史のあるAIDを振り返り、それに関与した大学医学部や病院、個人(当初は医学部の男子学生などがボランティアあるいは半ば強制(?)で精子を提供していたと聞く)から事実関係を調査し、過去のAIDに関して、問題点はなかったか、今後もAIDを続けるのか、続けるとすれば、どういう基準で行うべきなのか、そういうことをもっと議論すべてきではないのかと思う。

50年前の不妊治療が現在からみて技術的にはもちろん、その施行規準やルールといった面でもかなり不適切であったことは十分推測できるが、だからといってそれに目をつぶっていていいわけがない。少なくとも1万人以上がAIDで生まれ(ということは、自分の父親が実は生物学的父親ではなく、そのことを知らない人が1万人いて)、その人たちのうちのかなりの数の人もすでに結婚して子どもをもうけているということだ。

そういうことを問題にせず、「第三者の卵子提供による体外受精」が是か非かだけを議論する学会や厚労省、マスコミの姿勢が理解できない。

http://blogrank.toremaga.com/

2008年9月 1日 (月)

学会取材-日本受精着床学会

8月28日と29日,福岡で日本受精着床学会が開かれた。わたしは某社からの依頼で28日に発表のあった数演題を取材したが,依頼された取材で結構バタバタしていたのと体調不良(前日の夜に福岡入りしたもの何故か一睡もできずほぼ徹夜でホテルの朝を迎えた)が重なり,どうも積極的な聴講ができなかった。記憶も薄れてきたが,いくつかの演題/講演について,感想を書いてみよう。

教育講演1-02 「生殖補助医療とインプリンティング異常」(東北大学未来工学医療開発センター 有馬隆博氏)は,タイトルを見てすぐに聞いてみたいと思った講演だった。これまで,生殖補助医療(ART)による妊娠で生まれた子の先天異常有病率は自然妊娠で生まれた子のそれと変わらないとされ,それをサポートする研究もいろいろ発表されてきたが,最近,ART出生児に周産期合併症の発生頻度が高いという報告がいくつか出てきているそうだ。

そのくらいの知識はわたしも持っていたのだが,ARTで生まれた子に自然妊娠で生まれた子よりも多く発生するのはインプリンティング遺伝子という遺伝子になんらかの異常が後天的(エピジェネティック)に加わるからではないかという説があるらしい。インプリンティングとは刷り込みのことだが,鳥は生後最初に目にした対象を自分の親と思い込む,という程度のことしかわたしには思いうかばなかった。有馬氏の講演は,インプリント遺伝子というものがどういうものであるかから始まり,それが発生のどの段階で獲得されるか,インプリント遺伝子異常によって起こるインプリンティング病にはどのようなものがあるか,ARTとインプリント遺伝子異常との関係など,広範囲にわたったが,正直,難しくてよくわからなかった。インプリント遺伝子というのは,発生の早い段階で,父親由来のアレル(対立遺伝子)もしくは母親由来のアレルのみが発現されるよう選択される遺伝子のことであるらしく,その数は全ゲノムのなかである一定のパーセント(1%だったか0.5%だったか今は思い出せない)は存在するらしい。

そのインプリント遺伝子に異常がある場合に発生するのが,Beckwith-Wiedemann 症候群,Angelman 症候群,Prader-Willi症候群といったインプリンティング病だ。DeBaunという研究者が米国におけるART治療後のBeckwith-Wiedemann 症候群が4.1%,一方,一般集団における発症率は0.76%と2003年に報告しており,それだけを聞くと怖い気がする。もっとも,これらの症候群は,もともとの発症率が10000~20000人に1人程度の率なので必要異常に神経質になる必要は現時点ではないのかもしれない。

ランチョンセミナーは,「メタボリック症候群と生殖機能」(演者:九州大学病態制御内科 准教授,柳瀬敏彦氏)を聞いた。受精着床学会の内容とはあまりかぶらない,メタボリック症候群の基準値の問題点などの話が前半にあり,後半ではDHEA(いわゆる若返りホルモン)の値と寿命の関係などが示されおもしろかった。メタボ基準では女性の腹囲基準が90cmというのがおかしいこと(90cmとカットオフ値とすると,メタボになる女性は数%しかいなくなってしまう)は日本の多くの研究者の追試によってもほぼ証明されているらしく,わたしの理解が正しければ,日本の女性の場合は78~80cmあたりが適切な値のようだ。一方,男性の場合は85はちょっと厳しく87cm程度が適切な値という印象を受けた。ま,いずれにしても,現在の日本の基準値はやはり早晩,修正を余儀なくされるのではないだろうか(国際糖尿病学会[IDF]やその他海外学会からも日本の基準は奇異に見られているようだ)。

諏訪マタニティクリニック院長,根津八紘氏の「実母により代理出産」の発表も聞いた。この発表については,学会の前にすでに新聞などで報道されており,また,最新の「女性自身」などでも取り上げられているが,根津氏自身がクリニックのホームページでコメントを載せている。実母が娘の子供を代理母として妊娠し,生むというのはそこだけ読むとセンセーショナルな内容だが,まず患者(依頼母)はロキタンスキー症候群という生まれながらに子宮がない(あるいは機能しない)女性か子宮癌などで子宮全摘手術を受けた女性であり,自分の子供を持つ残された手段としては現在のところ代理母しかないのは理解できる。「自分の子供」と書いたが,わたしが一番疑問だったのはこの点だった。根津氏の場合,患者(依頼母)夫婦の配偶子(女性の卵子と夫の精子)を使った代理母出産に限定しているようであり,この点もわたしには抵抗なく受け入れられた。ただ,実母とはいえ55~60歳の女性が妊娠・出産することについては,控えめに言っても「驚き」というのが正直な感想だ。

2008年8月27日 (水)

インドで代理出産した夫婦の記事を読んで-赤ちゃんは物じゃないぞ!

7月に日本人の夫婦がインド人の代理母に赤ちゃんを生んでもらったが,出産の直前にこの日本人夫婦が離婚したため,赤ちゃんがインドから出国できないというニュースが最近新聞や雑誌で報道され話題になっている。わたしは自分自身,長男を体外受精(顕微受精[ICSI])で授かったので,不妊治療や生殖補助医療(ART)にはとりわけ関心が高いが,今回のニュースは純粋な医学的問題というよりも,不妊治療というものに対する考え方やかかわり方における問題が浮き彫りになったケースという気がする。

ここでは,週刊朝日8月29日号(131~133ページ)の記事<インド代理出産 「夫」の告白と「離婚妻」の言い分>という記事を読んでの感想などを記したい。この「夫」は40代の医師であり(専門は不明だが産科医でないことは間違いない。ネットで調べたら45歳とあり,わたしとほぼ同年代だ。また,この「夫」は離婚歴があり,最初の結婚で子供をもうけており,その子供とは離婚後会えていないという),前妻も40代だという。昨年10月に結婚してすぐに不妊治療をはじめたそうだが,女性の年齢を考えればこれはおかしいことではないかもしれない。解せないのは,この「夫」が結婚前からインドを訪れ,代理出産の準備をしていたらしいことだ。

昨年の10月に結婚して,その翌月の11月に夫婦でインドを訪れ,代理母となった20代のインド人女性と契約を結んだとある。この契約書には前妻も同意書に署名をしており,そのことからこの前妻の「無責任さ」(出産以前に離婚してしまったこと)は非難されるべきだが,これについて週刊誌の記事には前妻の言い分として<同意書は読む時間も与えられず,当時,新婚2ヶ月目だった私は到底納得出来る内容ではないため署名を断りました。しかし,病院側は「あなたのご主人の赤ちゃんは彼1人で迎えに来るから問題ないし,この同意書に法的拘束力はない。」と,元夫は「あなたに押し付けることはないので,書名しろ。」と両者に言い立てられて,署名させられました>と書かれている。

この記事を読む限り,確かにこの「夫」の奇妙さが強く印象付けられるが,前妻の行動にもわたしは疑問が残る。上記の前妻の言葉は,まるで訪問販売で商品や契約内容がよくわらぬまま契約書にサインさせられてしまった,と言っているようだ。

しかし,この女性は少なくとも9ヶ月の不妊治療歴があり,代理母というものがどういうものかぐらいはわかっていたはずだ。今回の場合は,卵子提供者は代理母とは別のネパール人の女性(そのことが問題をさらに複雑化させ,赤ちゃんの国籍問題や出国問題に障害となっているのだが)で,精子はこの「夫」のものらしい。インドでは,遺伝的に父親あるいは母親がインド人でない限りインド国籍を取得することはできないため,この赤ちゃんはインド人としてのパスポートはとれない。しかも,独身男性(今のこの「夫」は独身男性だ)は子供の親権を得ることはできないという。

この「夫」は医師でありながらどうしてこうも奇妙な行動を取ったのだろうか。そもそも,前の結婚で子供を作っているのだから,この「夫」は男性不妊ではないはずだ。40代の前妻が結婚後すぐに不妊治療を開始したということは,妻になんらかの不妊原因があることがわかっていたためだろうか。<インドで昨年の11月にIVF(体外受精)に挑戦し,その後,日本で2度不妊治療を行うも失敗>と記事にはある。日本で2度の不妊治療の内容が書いていないのでわからないが,IVFとかICSIとか,いずれにしても,ARTによる治療を行ったのであろうことは想像できる。

この記事には最後のほうに「夫」の父親というのも出てきて,<(中略)息子はSY,つまり世間がよくわからない。子供が欲しくて,もう年齢がいっているから急いでいるのかなとも思いますが>と言っているが,一番よくわからないのはあなたの息子さんですよ,とわたしは心の中で叫んでしまった。

この記事に出てくる,「夫」,前妻,「夫」の父親,の発言を読んでいると,どう言えばいいのか,とにかく軽い印象を受ける。直接責められるべきは「夫」と前妻であり,一番責任が重いのはこの「夫」に違いないが,とにかく,赤ちゃんを作るということを物を作るのと同じようにしか考えていないのではないか。安い労働力が供給されるので工場を中国に作って生産を始めよう,というような考え方と同じように感じてしまう。そうとでも考えなければ,結婚前からインドにわたり,向こうの代理母を探したり,向こうの医師と連絡をとりあったりしていたという行動がどうしても理解できない。

確かに日本で代理母による出産をすることは非常に困難だが(それを違法とする法律はないが,日本の学会は原則禁止している。ごく少数の医師が自分の判断で試みているのが現状だ),この「夫」と前妻にはまだ,不妊治療としてやるべきことはかなり残っていたのではとわたしは推測している(判断材料は少ないが)。少なくとも,男性不妊ではないし,女性も日本でも「不妊治療を2回試みた」のだから,子宮摘出などの絶対的な不妊原因があるとは思えない。

結局,自分たちの性急な判断や思い込み,判断ミス,勘違い,などによりこのような事態を招いたのではないだろうか。一番の被害者はいまインドで「夫」の母親に付き添われているこの赤ちゃんだろう。

「赤ちゃんは物じゃないんだぞ!代理母であれ,体外受精であれ,あるいは自然妊娠であれ,子供を作って(妊娠して)生むことは大変な作業ではあるが,生んでから育てることのほうがもっと大変だし重要なことなんだぞ。そんなことに想いが至らないひとは不妊治療なんかにかかわるな」と言いたい気分だ。

なお,明日,福岡で開かれる日本受精着床学会の取材をする予定なので,取材を依頼されている演題以外で聴講できるものがあれば聞いてみて,感想を書いてみたいと思います。

2008年3月25日 (火)

携帯電話の使い過ぎにご用心--不妊の原因となるかも

携帯電話がペースメーカーをはじめとする医療用電子機器に影響を及ぼすという心配はずいぶん以前から言われているが(これもどれほど根拠のあることなのかわたしは知らない),携帯の使い過ぎが精子の数や運動性に悪影響を及ぼすという試験結果がFertility and Sterilityに発表された

オハイオ州の不妊治療クリニックで行われた試験だが,361人の男性を携帯電話の1日の使用時間により4群に分け(不使用,2時間未満,2~4時間,4時間以上),各群の精液所見(精子数,運動性,生存率[viability],形態学的異常の有無)を比較検討したという。その結果,携帯使用時間が長い群に属する男性ほどこれらの精液所見が悪いことが確認された。

今回の試験には結果に影響を与えた可能性のあるいくつかの交洛因子(confounding factors)の存在が予想され,単純に携帯使用時間の長さと精子所見とを結びつけるのは早計だが,携帯中毒の男性にとってはちょっと怖い結果かもしれない。

もっとも,男性の精子の数や運動性が落ちているとか変らないという研究はかなり以前からあり(環境ホルモンが「流行った」頃,環境ホルモンのせいで男性の精子が減っている。これが不妊の増加につながっているという節が流布された),いまだに結論は出ていないようではある。

ま,わたしの携帯は1日1~2回しか鳴らないので全然心配いりませんけど(淋)。

2008年1月13日 (日)

アメリカはすごいなあ

昨夜,ニュース番組で卵子凍結保存の米国の状況を取材した短い特集を見た。私と女房は長男を5年間の不妊治療のすえ,体外受精(顕微授精)により授かったので不妊治療については多少知識があるし,仕事がら常に興味を持っている。受精卵に比べて卵子(未受精卵)の凍結保存が難しいことはもちろん知っていた。日本の専門クリニックの卵子保存技術が世界的にも最先端の水準にあることも理解している。しかし,米国は普及の度合いや広がりがすごい。すぐにビジネス化され,広まる。間違った広まり方もするだろうが,昨夜の番組を見るかぎり,卵子の年齢(卵子の若さ,鮮度)が妊娠が成功する最も重要なファクターの一つであるということは米国女性の間で日本よりも理解されているような印象を持った。日本では35歳を過ぎても「いざとなれば不妊治療を受ければ子どもを作ることは簡単」というような間違った考え方を持っている女性が増えているような気がする。不妊には男性側の因子,女性側の因子があり,女性側の因子には排卵因子(うまく排卵しない),卵管因子(卵子が卵管をうまく通過できない),子宮因子(子宮に受精卵が着床できない)などがあると言われている。現在,顕微授精を活用すれば(男性側が無精子症だとまた問題は別だが),受精卵まで到達するのは簡単だ。しかし,着床,それから妊娠継続となると成功率はぐっと下がる。その原因もいろいろあるのだろうが,卵子の若さが大きな要因と言われている(卵子の細胞質移植などは,卵子を若返らせる技術だ)。したがって,年齢が若いうちに卵子(未受精卵)を凍結保存しておいて,40歳を過ぎてから戻す(精子はインターネットで売っているものを買う。テレビで米国の様子が出ていたがやはり驚いた)というのは理にかなっているとは言えるのだろう。しかし,やはり米国のような状況をすばらしいとは思えない。いろいろ考えさせられた。